「PSA10になれば3倍」——鑑定を語るとき、たいていこの倍率で話が終わります。でも実際の成約データで計算すると、倍率を見ても答えは出ません。効いていたのは倍率ではなく、まったく別の数字でした。
この記事では、実際の成約データ12銘柄を使って「PSA10が何%の確率で付けば、鑑定に出す意味があるのか」という損益分岐点を1銘柄ずつ計算しました。結論から書きます。
この記事の結論
- 調べた12銘柄のうち、2つの計算基準どちらでも「鑑定に出して得」だったのは2銘柄だけだった
- 逆に5銘柄は損益分岐点が100%を超えていた。つまり全部PSA10になっても、鑑定費を回収できない
- その場で使える判定法:「PSA10の価格 − 素体の価格」が鑑定費(約12,500円)を下回っていたら、計算するまでもなく出す意味がない。100%成功しても足が出ます
- 効くのは倍率ではなく差額。倍率4.9倍でも差額が足りる銘柄と、倍率2.1倍で足りない銘柄がある。倍率は差額を教えてくれない
なぜ「取得率」で考えるのか
鑑定に出すかどうかの判断で、多くの人が見落とすものが2つあります。
1つめは、PSA10にならなかったときのことです。PSA9になった場合、そのカードには一応値段が付きます。ゼロにはなりません。だから「PSA10になるか、ならないか」の二択ではなく、PSA9になったときの金額も計算に入れる必要があります。
2つめは、素体をそのまま売るという選択肢です。鑑定に出すということは、今の素体の値段で売る機会を捨てるということです。つまり素体の価格は「持っているだけ」でも失われるコストとして数えます。
この2つを入れると、鑑定がトントンになる条件はこう書けます。PSA10が付く確率をpとすると——
p × PSA10の価格 +(1−p)× PSA9の価格 − 鑑定費 = 素体の価格
これをpについて解くと、損益分岐となる取得率が出ます。
損益分岐の取得率 =(素体の価格 + 鑑定費 − PSA9の価格)÷(PSA10の価格 − PSA9の価格)
この式のいいところは、取得率を仮定しなくていいことです。「PSA10になる確率は何%か」は誰にも正確には分かりません。だから確率を当てにいくのではなく、「何%を超えたら得になるか」という境目のほうを計算して、それが現実的な数字かどうかを見る——という順番にしています。
もうひとつ。この式は「これから素体を買う人」と「すでに素体を持っている人」で同じになります。持っている人にとっても、素体は「売れば手に入ったはずのお金」だからです。
使ったデータ
- 対象:ポケモンカード151のマスターボールミラー/AR、および超電ブレイカーのマスターボールミラー、計12銘柄
- 価格:フリマアプリの成約履歴(出品中の価格ではありません)。素体は状態A、PSA10・PSA9はそれぞれの鑑定済み区分
- 集計方法:2026年に成立した取引の中央値。平均だと1件の高値取引に引っ張られるため中央値を使っています
- データ取得日:2026年9月1日
- 鑑定費:1枚あたり12,497円。PSAレギュラー(11,980円)に事務手数料・返送保険料・往路送料を足し、10枚まとめて出した場合の1枚あたり総額です。詳しくはPSA鑑定の費用は総額いくら?にまとめています
12銘柄の損益分岐取得率
損益分岐が低いほど「鑑定に出す余地がある」銘柄です。数字が小さい順に並べました。
| 銘柄 | 素体 | PSA10 | PSA9 | 損益分岐 取得率 | 判定 | 成約数 素体/PSA10 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| コイキング マスボミラー SV2a 129/165 | 13,990円 | 33,700円 | 14,000円 | 63.4% | 成立しうる | 16 / 162 |
| コダック マスボミラー SV2a 054/165 | 19,999円 | 39,500円 | 16,800円 | 69.1% | 成立しうる | 11 / 118 |
| ミュウツー マスボミラー SV2a 150/165 | 21,500円 | 42,000円 | 11,555円 | 73.7% | 成立しうる | 41 / 200 |
| ブラッキー マスボミラー SV8a 092/187 | 18,500円 | 36,666円 | 12,000円 | 77.0% | 成立しうる | 90 / 200 |
| エーフィ マスボミラー SV8a 062/187 | 3,999円 | 19,400円 | 5,500円 | 79.1% | 成立しうる | 64 / 200 |
| ニンフィア マスボミラー SV8a 068/187 | 5,000円 | 17,800円 | 6,999円 | 97.2% | ほぼ限界 | 42 / 200 |
| イーブイ マスボミラー SV2a 133/165 | 7,500円 | 20,000円 | 8,500円 | 99.97% | ほぼ限界 | 20 / 200 |
| ミュウツー AR SV2a 183/165 | 5,000円 | 17,400円 | 6,000円 | 100.9% | 出す意味なし | 200 / 200 |
| ゼニガメ マスボミラー SV2a 007/165 | 9,900円 | 19,999円 | 6,500円 | 117.8% | 出す意味なし | 30 / 144 |
| ピカチュウ AR SV2a 173/165 | 6,700円 | 16,500円 | 5,800円 | 125.2% | 出す意味なし | 200 / 200 |
| ギャラドス マスボミラー SV2a 130/165 | 10,999円 | 18,000円 | 8,888円 | 160.3% | 出す意味なし | 10 / 105 |
| カビゴン マスボミラー SV2a 143/165 | 5,888円 | 12,500円 | 4,500円 | 173.6% | 出す意味なし | 15 / 137 |
価格はいずれも2026年の成約中央値。損益分岐が100%を超えている5銘柄は、仮に出したカードが全部PSA10で返ってきても、鑑定費を回収できないという意味です。
いちばん極端なのがギャラドスで160.3%。素体10,999円に鑑定費12,497円を足すと23,496円ですが、PSA10の中央値は18,000円しかありません。成功しても5,496円のマイナスです。
結果が安定していない3銘柄
同じ計算を「2026年の中央値」ではなく「直近の成約価格」でやり直すと、コイキング・エーフィ・カビゴンの3銘柄は判定がひっくり返ります。
| 銘柄 | 2026年中央値ベース | 直近成約ベース | 判定 |
|---|---|---|---|
| コイキング | 63.4% | 117.8% | 不安定 |
| エーフィ | 79.1% | 117.9% | 不安定 |
| カビゴン | 173.6% | 94.2% | 不安定 |
| コダック | 69.1% | 74.0% | 一致 |
| ミュウツー マスボ | 73.7% | 76.6% | 一致 |
| ギャラドス | 160.3% | 160.3% | 一致 |
理由は成約数です。素体の成約が年10〜20件しかない銘柄は、数件の取引で中央値が動いてしまうので、判定が安定しません。表の右端に成約数を載せているのはそのためです。素体の成約が20件を切っている銘柄の数字は、参考程度に見てください。
両方の基準で一致した9銘柄のうち、はっきり100%を下回っていたのはコダックとミュウツー(マスボミラー)の2つだけでした。ブラッキーとニンフィアは95〜99%で、事実上ぎりぎりです。
効くのは倍率ではなく「差額」
結果を眺めていて、はっきりした法則がひとつ出ました。
PSA10の価格 − 素体の価格 < 鑑定費(約12,500円) なら、その銘柄は100%成功しても損になる
当たり前に見えますが、実際に当てはめるとかなり効きます。今回の12銘柄では、この差額が12,497円を下回った銘柄は例外なく損益分岐が100%を超えました。
そして重要なのが、倍率とこの差額はまったく連動しないことです。
| 銘柄 | 素体 | PSA10 | 倍率 | 差額 | 鑑定費を超えるか |
|---|---|---|---|---|---|
| エーフィ マスボ | 3,999円 | 19,400円 | 4.85倍 | 15,401円 | ○ 足りる |
| コダック マスボ | 19,999円 | 39,500円 | 1.98倍 | 19,501円 | ○ 足りる |
| コイキング マスボ | 13,990円 | 33,700円 | 2.41倍 | 19,710円 | ○ 足りる |
| ピカチュウ AR | 6,700円 | 16,500円 | 2.46倍 | 9,800円 | × 足りない |
| カビゴン マスボ | 5,888円 | 12,500円 | 2.12倍 | 6,612円 | × 足りない |
| ギャラドス マスボ | 10,999円 | 18,000円 | 1.64倍 | 7,001円 | × 足りない |
エーフィは4.85倍という高い倍率ですが、差額は15,401円あるので条件を満たします。一方カビゴンは2.12倍で、差額は6,612円しかなく届きません。ところがコダックは1.98倍とカビゴンより倍率が低いのに、差額19,501円で余裕があります。
つまり倍率は「素体がいくらか」を隠してしまうのです。素体3,000円のカードが3倍になっても差額は6,000円で、鑑定費に届きません。素体2万円のカードなら2倍でも差額2万円です。倍率が高い=素体が安い、というだけの話であることが多く、鑑定の判断材料としては使えません。
この考え方の詳しい解説はこちらでも書いていますが、今回のデータでその主張が裏付けられた形になりました。
自分のカードで計算する手順
同じ計算は誰でもできます。必要なのは3つの数字だけです。
- 素体の成約価格を調べる。出品中の価格ではなく、実際に売れた価格を見ます。状態Aで揃えてください
- 同じカードのPSA10とPSA9の成約価格を調べる
- まず差額を見る。PSA10 − 素体 が12,500円未満なら、ここで終了です
- 超えていたら式に入れる:(素体 + 12,497 − PSA9)÷(PSA10 − PSA9)
- 出てきた数字が、あなたのカードで現実的に達成できる取得率かどうかを考える
最後の判断はどうしても主観が入ります。ただ、センタリングがずれているカードは高い確率でPSA10になりません。ここは開封した時点で決まっていて、保管では直せません(保管方法の基本)。手元のカードを見て、上下左右の余白が明らかに偏っているなら、損益分岐が70%の銘柄でも出す意味は薄いです。
成約価格の調べ方そのものはポケカ相場の正しい調べ方にまとめています。
この計算の限界(正直に書きます)
数字を出しっぱなしにすると、それはそれで誤解を生みます。この計算が抱えている弱点を先に書いておきます。いずれも「実際はもっと厳しい」方向に効きます。
| 弱点 | 結果への影響 |
|---|---|
| PSA8以下を計算に入れていない。実際は10か9かの二択ではなく、8以下も出ます | 実際の損益分岐はここで出した数字より高くなります |
| PSA9の価格が直近1件の成約。素体やPSA10と違い、まとまった件数を取れていません | この式の入力でいちばん頼りない数字です |
| 売却時の手数料・送料を入れていない | 売って現金化するなら、さらに1割前後厳しくなります |
| 4〜5ヶ月の拘束を計算に入れていない。その間そのカードは売れません | 相場が動くリスクを負っている分、見えないコストがあります |
| 対象がマスターボールミラーとARに偏っている | 旧裏や高額SARなど、価格帯の違う札には当てはまらない可能性があります |
| 鑑定費を一律12,497円で計算。実際は申告価格でプランが上がります | PSA10が25万円を超える銘柄ではこの金額では出せません |
もうひとつ。よく引用される「PSA10の取得率は◯%」という数字は、多くの場合鑑定に出された枚数のうち10が付いた割合です。人は状態の良いカードを選んで出しますし、9が付いたカードをケースから出して再提出する人もいます。つまりこの割合は、あなたが手元のカードを何も選ばずに出したときの確率より高く出ます。そのまま自分のカードに当てはめると、判断を誤ります。
価格はすべて2026年9月1日時点のものです。相場は動くので、判断するときは必ず今の数字で計算し直してください。
差額が足りなかったカードはどうするか
「鑑定に出す意味がない」は「価値がない」ではありません。選択肢は3つあります。
- そのまま持つ。今回のデータで見ると、素体もPSA10も2023年からしっかり上がっています。鑑定費を払わずに持っているだけでも値上がりは取れます
- 素体のまま売る。鑑定に4〜5ヶ月かけて結局マイナスになるより、今の値段で確定させるほうが合理的な場合があります
- 鑑定済みが欲しいなら、PSA10を買う。差額が足りない銘柄は、自分で出すよりすでにPSA10になっているものを買ったほうが安いという計算結果になっています
素体のまま売る場合、宅配買取はどの業者でも販売相場より安くなるのが基本です。高額な1枚は複数社で見積もりを取ってください。初めてなら、古本市場を運営する上場企業のグループで実店舗も持つふるいちあたりが無難です。店ごとの比較は信頼できる宅配買取5店の比較にまとめています。
まとめ
- 12銘柄で計算して、2つの基準どちらでも「鑑定に出して得」だったのはコダックとミュウツー(マスボミラー)の2銘柄だけだった
- 5銘柄は損益分岐が100%超=全部PSA10になっても鑑定費を回収できない
- 最初に見るのは「PSA10 − 素体」が12,500円を超えるか。ここで大半がふるい落とされる
- 倍率は判断に使えない。倍率は素体が安いことを意味しているだけで、差額を教えてくれない
- この計算は実際より甘い(8以下・手数料・拘束期間を無視している)。境目ぎりぎりなら見送るほうが安全
鑑定は「出せば価値が上がる魔法」ではなく、12,497円と4〜5ヶ月を払って確率を買う行為です。払ったぶんを回収できる銘柄は、思っているよりずっと少ない、というのが今回のデータから出た答えでした。
関連:PSA鑑定の費用は総額いくら?/PSA鑑定の出し方と流れ/PSA10の狙い目を探す3ステップ/実質EVランキング/ポケカで損しない完全ガイド
よくある質問(FAQ)
PSA鑑定の損益分岐取得率はどう計算しますか?
(素体の価格 + 鑑定費 − PSA9の価格)÷(PSA10の価格 − PSA9の価格)で求められます。出てきた割合を超える確率でPSA10が付くなら、鑑定に出す意味があります。価格はすべて出品中ではなく成約価格を使ってください。
鑑定に出す価値があるかを一瞬で判定する方法はありますか?
「PSA10の価格 − 素体の価格」が鑑定費(約12,500円)を下回っていたら、その時点で出す意味がありません。100%PSA10になっても足が出るためです。今回調べた12銘柄では、この条件を満たさない銘柄は例外なく損益分岐が100%を超えました。
PSA10になれば3倍になる銘柄なら得ですか?
倍率は判断材料になりません。倍率が高い銘柄は素体が安いことが多く、差額が鑑定費に届かないケースが頻繁にあります。実際に倍率4.85倍で条件を満たす銘柄と、倍率2.12倍で満たさない銘柄が同時に存在しました。見るべきは倍率ではなく差額です。
PSA9になったら損ですか?
損になることが多いです。PSA9には値段が付きますが、状態の良い未鑑定カードの相場を下回ることが珍しくありません。そのため「引き分け」ではなく、鑑定費のぶんだけマイナスとして計算する必要があります。
鑑定費は1枚あたりいくらで計算すればいいですか?
2026年6月3日にバリュー系プランが全て受付停止になったため、最安はレギュラーの11,980円(税込)です。事務手数料・返送保険料・送料を含めると、10枚まとめて出した場合で1枚あたり約12,497円になります。1枚だけ出す場合は約15,150円と割高です。
この計算で鑑定に出す価値があると出たら、必ず儲かりますか?
いいえ。この計算はPSA8以下が出る可能性、売却手数料、4〜5ヶ月の拘束期間を含んでいません。いずれも不利に働くため、実際の損益分岐はここで出した数字より高くなります。境目ぎりぎりの銘柄は見送るほうが安全です。

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